ときどき書きます 「宇部日報」掲載エッセイ


2014年6月24日(木)「茶論(サロン)」欄

 


(2014.9.25)

「Yさんと二胡」        真真

 東日本大震災の被災地に通うようになって2年半。そこで出会った人生最初の弟子のYさんを紹介します。

 2年前の6月のこと。陸前高田の訪問は2回目でした。慰問演奏をした際、Yさんに中古の二胡をプレゼントしました。その日の夕方、宿の茶の間で公開レッスンをすることになりました。驚いたことに、替えの弦を早速購入されていました。弾いてもらうと、なんとなく曲になっています。慰問演奏会の後の数時間、ずっと練習しておられたのでしょう。無心に二胡に向かう姿が目に浮かびました。

 人生で築き上げたもの、手に入れたもの、あらゆるものを流され、途方に暮れた方々が、茶の間で二胡を囲んでワイワイ、ガヤガヤ。久しぶりの笑い声を聞きながら、また来ようと考えました。

 Yさん宅は仮設住宅でした。二胡を練習する音が漏れてうるさいはずですが「安否確認できますから」という近隣の方々。Yさんの心を理解されていました。奥さまを震災の1年後に亡くされ、1人ぼっちの仮設暮らしは本当に寂しかったでしょう。一方で、保育園や地域の行事などにいつでもどこでも自ら参加し、人生の楽しみ方を身をもって伝えておられました。

 ある時、慰問演奏会で私がアンコール曲を弾いていたら、妙な音が……。客席でYさんが一緒に弾いているのです。「あれはいけません」と、後で先生として注意したら「年寄りは自制が利かないのだ」とケロリ。圧倒的に自由なYさんに降参しました。

 それが、最後の「共演」でした。すでに病気が進行し、覚悟もあったようです。半年後のこの夏、82歳で他界されました。きっと、天国でも弾いていらっしゃることでしょう。

(本名関浩恵・宇部市出身・二胡奏者・元高校教諭・千葉県在住)